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2015.11.16
[イベントレポート]
「ソーシャルメディアがいかに現代人に影響を及ぼしているか、私はもっと語られるべきだと思います」コンペティション『フル・コンタクト』-10/27(火):Q&A

フル・コンタクト

映画祭事務局に来てくれたダビッド・フェルベーク監督(下・サイン中)、グレゴワール・コランさん(上)
©2015 TIFF

 
10/27(火)コンペティション『フル・コンタクト』の上映後ダビッド・フェルベーク監督、グレゴワール・コランさん(俳優)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
ダビッド・フェルベール監督(以下、監督):今回参加できて本当に嬉しく、大変光栄に思っております。まず、日本語の字幕がスクリーンのわきに出ていて、これは今まで観たことがなく、素晴らしいアイデアだと思いました。一緒に観ていて、今晩のお客様は本当に素晴らしい観客だと言うことを実感できました。Q&Aにこれだけの方が残ってくださるという経験はこれまでありません。
 
Q:コランさん、久しぶりの東京の印象はいかがですか?
 
グレゴワール・コランさん(以下、コランさん):日本に来るのは20年ぶりでしょうか。映画『ネネットとボニ』という作品のプロモーションのために来たのが初めてで、その時は東京の他、箱根などにも行き、温泉にも浸かりました。その後、河瀨直美監督と一緒にお仕事をする機会をいただき、その時の作品の舞台はタイでしたが、河瀬監督の出身地でもある奈良でポストプロダクションの作業なども見学させていただいて、大変いい思い出を持っております。
 
Q:そもそもこの映画が浮かんだきっかけからお聞かせいただけますか?
 
監督:私のこれまでの作品を踏まえますと、このテーマはとてもロジカルな、次のステップと言えると思います。これまで私は疎外感、または新しいソーシャルメディアによって、マーシャルなかたちで人々が繋がりを持つということに興味を持ち、描いてきました。これらのテーマはもっと語られるべきものであると私は思うんですが、なかなかそれを取り扱う作品がない。ソーシャルメディアがいかに現代人に影響を及ぼしているかということにとても興味を持っていますし、もっと語られるべきだと私は思ってきました。実はこの映画の最初のアイデアは、2010年にカンヌで私の『RU There』という作品が上映された辺りから考えだしました。その作品はプロのゲーマーの物語なんですが、同じ頃、遠隔から爆撃をするということが語られ始めて、私自身もとても興味を持つようになりました。それからリサーチを始めてアイデアがどんどん浮かんできたわけです。
 
Q:コランさんはどのような点に魅力を感じてこの役を引き受けられたのでしょうか?
 
コランさん:そもそも監督の全作品を観る機会がありまして、僕自身、監督の作品を気に入ったんです。同時に監督の方でもシナリオを書く段階から私を念頭においていたということもあり、両者の思惑が一致したんですね。私はこの作品の中で3人の異なる人物を演じるという点に惹かれました。撮影では順番通りに撮ったわけではないですし、言葉も英語、フランス語と変わっていく、そういう面でも難しかったです。3つの異なった人物像を演じるということで、例えば最初に出てくる人物は性格的にもかなり傲慢で高飛車な感じがして、対人関係も危ういところがあり、人を殺す際のやり方にしてもちょっと独特なところがある。それからまた、男女関係においても危ういところがある人物も演じることになりました。そして話が進んでいくにつれて、徐々に恐れや苦しみといった非常に人間的な感情を持ち始める人物を演じることになります。そこからさらに、愛情や同情といったようなものを感じることになっていく。1つの作品の中で3つの異なる作品を作るような、非常に面白い計画ではないかと思いました。
 
Q:この映画にこめたメッセージや、映画を観た人にどう感じて欲しいかをお聞かせください。
 
監督:今回私が語りたかったのは、人間がどのようにしてトラウマ的体験を自分の中で消化していくかということです。まずは自分がそういう状況でどのようにするか、というところから始めました。誰もがトラウマを経験し、それを自分なりに乗り越える経験をしたことがあると思います。それを今回の映画の構成にしたいと思いました。
1つ例を挙げさせてください。例えば私がバイクに乗って出かけたとしましょう。そして、すでのところで交通事故を起こすような状況に陥った。日本の方々はアムステルダムの人よりも遥かに礼儀正しいからこんなことはないかと思いますが、アムステルダムであれば相手が「馬鹿野郎!」と怒鳴り散らして、バイクに乗ってその場を去るでしょう。それで去りながら、自分の中で「あーあんなことしなければ良かった、もしこうしていたらあんなにスピードを出さなかった、あんなことはしなかったかもしれない」とか、または「あんなに罵倒されたんだから僕もバイクから降りて、相手にもっとひどい言葉をかければよかった」とか、いろんなことを繰り返し頭の中で思い描きますよね。その状況を今回の映画でも描きたいと思いました。
もう1つ例を挙げましょう。例えば恋愛です。相手と別れた時、「あの時あんなこと言わなければ別れずに済んだかもしれない」とか「あの時こう接すればよかったかもしれない」とか、そういった状況を頭の中で消化していくというのは、どんな方でも経験があると思います。
今回、この映画の中で3つに分かれて描かれているのは、実は1つの状況、1人の人間がいろいろ繰り返し、あの時こうすればよかった、あぁ言えばよかった、と頭の中で考えているという風にご理解ください。
皆様にこの映画を観た後どう感じていただきたいかということですが、この主人公というのはそもそも、人間関係を持つということがとても下手です。とにかく他の人たちから距離をおきたいと思っているわけです。けれども最後になって彼はボクシングを通して人と相対することを学ぶわけです。それを通して今度は自分の人間性というものも再発見します。そういった物語にしています。
 
Q:主人公を取り巻く環境が寓話的になればなるほど、痛みの描写だけはものすごくリアルになっていきます。そこのバランスというか、比重を徐々にずらしていくというのは意識されているのでしょうか?
 
監督:もちろんそうです。この映画の始まり方はごく普通の、従来の映画と同じように思ます。主人公がとてもつらい経験をして、それを彼が乗り越えるという映画かなと観始めるんですが、それが今度は意識下の、潜在意識のロードムービーに変わっていくわけです。
 
Q:コランさんにも、3つのパートの演じ分けで気にされたことをうかがえまうすか?
 
コランさん:今回は監督に指示を仰ぐというかたちでやりました。特に3番目のパートに関しては結構難しいところがありました。中でもスリマヌさんと演じる時ですね。演技をスタイル化するといいますか、一種の夢のような雰囲気を出しつつ、そこにリアルなものをどのくらい配分するかというような難しい面がありました。
それから例えば、痛みについてうまく表現できたのか、自分自身としては何とも言えないところがあります。映画で痛みを演じるというのは、上手くやらないとかなり滑稽に見えてしまうこともありますから、さじ加減といいますか、やりすぎてしまったり、あるいはちょっと足りなかったり、難しい面もあります。その辺も含めて、自分としては監督のスタイルに合わせるというかたちでやってみたつもりです。
 
Q:この映画を観終わった時、加害者と被害者の対話が訪れたんじゃないかと思ったんです。このような解釈をどう思われますか?
 
監督:今の解釈のように、皆様本当にご自由に思ってください。というのは、僕は「こういう風に解釈してください」と狭めたくないんですね。皆様にはそれぞれいろんな解釈を持っていただきたいと思っています。ただ一つ言えるのは、やはりこの映画の核は、追う者と追われる者、ハンターと獲物、その関係性の継承だということです。先ほどもちょっと触れたんですが、ハンターがはしごを降りて獲物のところまで降りてくる、そういったことをこの映画の中では多少描いているつもりです。
いま質問してくださった方がこの映画を本当に、真剣にご覧くださったことをとても嬉しく思います。もう一度ご覧になったら違う解釈が生まれてくるかもしれません。私は映画というものはまず、そういった映像、そして音を通してコミュニケーションを持つことだと思います。そしてその内容は、言葉では表せないものをコミュニケートすることだと思います。言葉で表せるものを伝えたいのであれば本を書けばいいわけですから、映画というものはそうではないと。そして観る側のイマジネーションをちょっとくすぐるような、「え、どうなのかな」と観客に思っていただけるような、そういったものを作るというのが映画の目的であり使命だと考えています。なので、私はあまり分りやすい映画をなかなか作ることはない、ということも言えるわけです。

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