10/27(火)日本映画スプラッシュ『下衆の愛』の上映後、内田英治監督、アダム・トレルさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
内田英治監督(以下、監督):今日はこんなに沢山起こしいただきありがとうございます。映画が出来上がって一般の方に観ていただいたく二回目の上映ですが、逆に僕が気になりますね。どう思ったのか。今日はよろしくお願いします。
アダム・トレルさん(以下、アダムさん):最近は疲れているね。映画を観るパッションがなくなっている。この仕事長いから辞めたいと思ったけど、この映画は本当に好きで50回くらいみたんだよ。本当に好き!だからパッションが戻ったんだよね。それはもう監督やスタッフのおかげ!凄く幸せ!嬉しい!
Q:もともとお2人の出会いはいつだったんですか?『下衆の愛』を製作するきっかけを教えて下さい。
監督:二年前、僕は前作の『グレイトフルデッド』という映画でイギリスのレイダンス映画祭に行って、彼はたぶんその映画祭の日本映画を担当しているんですけど、現場では一切会っていなくて……。担当しているはずなのに、僕だけ放置プレイでケアしてもらえず。日本に帰ってきて、そこらへんの居酒屋の飲み会で彼と初めてお会いしたんです。その時にDVDを観てもらって、そこからのお付き合いですね。
Q:『下衆の愛』の脚本が出来上がっていたものを相談したんですか?それとも二人で相談してこういうテーマはどう?といったようなプロセスだったのでしょうか。
監督:最初は『グレイトフルデッド』を凄く気に入ってくれて、「この映画は本当に好き」と言っていただきました。イギリスの方で配給してもらったり、ドイツで紹介してもらったり。彼のおかげで世界中で上映できました。今年は前作と違って日本映画風のものを撮りたいと相談したら、バックアップするよといっていただきました。
Q:タイトルに“下衆”という言葉が入っていて、日本人はこの言葉のニュアンスがなんとなくわかると思いますが、アダムさんは言葉の意味を100%理解したうえでプロジェクトを進めていたのでしょうか。
アダムさん:全然わからなかった。いろんな友達に聞いたんだけど、ちょっと英語では説明しづらいって言われたね。かなり時間がかかったよ。
監督:かなり特殊な日本語ですからね。外国の方には分かりづらいと思うので説明していただければと思うのですが、日本にはクソ人間には三種類あって、ゲス・カス・クズってね。日本人の方なら分かると思いますけど、ただ一言でおさまらない日本語のおくゆかしさ……。3種類あるっていうのは説明していただければ(笑)
Q:では監督が思う“下衆”というのはどういう位置にあるんですか?
監督:僕は良い人間より悪い人間を主人公に描きたいと常々思っているんですけど、“下衆”というのはギリ愛せるっていう人ですね。
Q:アダムさんはできあがった作品をご覧になっていかがでしたか?
アダムさん:下衆すぎると本当に売りにくいんだよね、海外で。最初から結構エロいところから入りたかったんだけど、もうちょっと落ち着いた方が良いって言われて……。この映画は意外とそんなに下衆じゃないよ。
Q:映画の中に沢山の下衆なプロデューサーさんが出てきましたが、実際にモデルさんがいらっしゃるのではないかと思います。逆に完全に創作した部分はどこですか?
監督:創作した部分で一番分かりやすいのが女優さんを叩くところですね。主人公の監督がビンタをするところ。本当のところ、でんでんさんが演じたプロデューサーの話はほとんど僕が経験したものなんです。僕は昔脚本家だったんですけど、駆け出しの頃はいろんなプロデューサーに常に売り込んでいて。それで「この脚本は億になるねぇ~」と言いながらコーヒー代すら持っていないプロデューサーもいたりとか。
Q:アダムさんはコーヒー代は持っていましたか?
アダムさん:俺めっちゃ払ったよね!?
監督:彼は凄いレコードコレクターなんですけど、それを売ってこの製作の足しにしてくれたんです。
アダムさん:めちゃくちゃ泣いたよ!すごい泣いてたよ!
監督:ポンドが今強いから、いつもメールで「今チャンス!今チャンス!」って言って向こうからのお金を日本で換金して映画製作にあてているんです。だいぶ違うみたいで、「今!今日チャンス!」ってよくメールがくるので、為替の勉強になりました。
Q:古舘寛治さん、木下ほうかさん、津田寛治さん、例えばこの三人の監督役を捉えると、内田監督ご自身は誰に一番似ていらっしゃると思いますか?
監督:最初の試写のときに、お客さんから「もしかして脚本家を自分として書いている、綺麗事じゃないんですか」という質問がありまして。イケメン設定で何も悪いことしない役なんですけど、僕のスケープゴートにしてるっていう。僕は元々脚本家だったんで、10年前に撮った『ガチャポン』という作品があって、実はその主人公と同じ名前にしているんですよね。デビュー作の主人公の名前をそのまま出してるんですよ。僕も助監督経験もなく監督やっているもんで、最初はいろんなプロデューサーや先輩の監督に翻弄されながら映画作りをしていたんです。だからどっちかというと細田君演じたマモルであり、翻弄されている方の気持ちで一応書いたつもりなんですけど。また綺麗事って言われるかもしれませんが。うまく逃げたなって言われるんでしょうけど、一応そういうつもりではいます。
Q:アダムさんから見て、内田さんはどんな監督ですか?
アダムさん:監督を前に言えるのは、本当にすごくリスペクトしている!これは自主映画だからスタッフが全然いなくて、みんないろんな仕事をしていたね。俺はメイキングを撮ったりコーヒーを作ったり、掃除したりめちゃくちゃやったんだよ。今までいろんな監督と仕事をやったけど、内田監督はすごいプロフェッショナル!現場でも全然時間がないから、頭のなかでいろんなシーンを作って、全部1テイクで。テイクの前は頭でちょっと作ってて。俺は本当にそれが好きになったから、ずっと内田監督だけメイキングに撮ってた。メイキングになってなくてダメだけど、すごい最高!
最終日は27時間ノンストップで。前の現場なんかは皆ストレス溜まったりしてカオスだったけど。今回は27時間経ってもみんなすごくリラックスしてた。監督は全然ストレスが溜まらないから、全然大丈夫だった。内田監督はすごいパワーがある。
監督:絶対普段そんなこと言わないですけどね。いつもはゲス、ゲス言ってきます。
Q:きっと監督とお仕事されたいという方が集まったのだと思いますが、特に女優さんのキャスティングが気になります。どのようにオファーをしたのでしょうか。
監督:逆ですね。この映画はすごく大変で何人も女優さんに断られているんです。最初の脚本はもっとハードコアで、もっとゲスというか、カスな脚本で、こんなライトな感じではなくて、裸のシーンも多かったんですよ。もう全員裸みたいな……。誰も出てくれないので、女性のキャスティングは本当に数日前に決まったという感じで。女性は全然寄ってこなかったですね。キョウコ役の内田慈さんなんて5日前ですからね。
アダムさん:2日前じゃない?決まったのは。
監督:2日前だっけ。本当にそういう世界ですよ。外国に行ってて戻ってきたのが確か2日前なので、はい!台本読んで!はい!現場きて!みたいな。そういう感じだったので、女優さんのキャスティングは本当に大変でした。これ撮れないんじゃないかと思いましたね。
Q:この話はどのように思いついたんですか?脚本はひとりでひたすら書かれているんですか?
監督:脚本は自分で書くようにしています。この話は映画をネタにしたコメディ映画を撮りたいなって前々から思っていて。外国は商業映画か学生映画しかないと思うんですけど、自主映画って日本独特の表現だなぁって思って、そこを舞台ににした下北映画というのを撮りたいなと。僕、あんまり好きじゃないんですけど、あえて下北映画を撮りたいなと。いわゆる四畳半映画という、すごく身内の狭い世界を映画にする。それで自分の周りとなると映画の話になって、なので狭い映画を作りたかったというのがきっかけです。外国で言うヒップスタームービー?アメリカン風にいうとブルックリンムービーかな?
Q:映画祭も6日目ですが、『下衆の愛』はすごく評判がいいです。特に男性です。
監督:ありがたいですけど、絶対思ってないだろうという斜めな目で見ています。
Q:次の映画も下北四畳半ムービー、狭いドラマを考えているんですか?
監督:もう四畳半ムービーは人生で最後だと思いますけど……。次は前作『グレイトフルデッド』じゃないですけど、また日本であまりうけなさそうな、信仰とか宗教とか死とか、そういうものをテーマにした映画をやりたいなと思っています。
Q:最近パッションが下がっていたというアダムさんは、内田監督とのお仕事がまだまだ続きそうですか?
アダムさん:配給のお仕事があるね。まだまだ。日本人の監督はいつも映画終わってすぐに次の映画始めたんだけど、俺なんかはまずこの映画をちゃんとプロモーションをして配給しようと。これはこの前も言ったんだけど。
監督:日本人は、売れている監督さんだと1年に3本も4本も映画撮るけど、僕は売れてない身なのにそれより少ないのはまずいだろという話をしたんです。やっぱりどんどん撮らないといけないから。そしたら彼は「配給があるだろ!」って。1本1本ちゃんとやりなさいって怒られましたけど……。
Q:長い縁になりそうですね。
監督:よろしくお願いします。
アダムさん:この映画は2016年4月2日からテアトル新宿で公開です。みんな、友達に言ってくださいね!