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2015.11.13
[イベントレポート]
「人種や肌の色が違ってもみんな一つになれる。お互いを愛し合いましょう。抱擁をしましょう。」アジアの未来『父のタラップ車』-10/26(月):Q&A

父のタラップ車

左から ハサン・トルガ・プラット監督、ビロル・ギュヴェンさん(製作/脚本)、ハジュ・アリ・コヌックさん(俳優)|©2015 TIFF

 
10/26(月)、アジアの未来『父のタラップ車』の上映後、ハサン・トルガ・プラット監督、ビロル・ギュヴェンさん(製作/脚本)、ハジュ・アリ・コヌックさん(俳優)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
ハサン・トルガ・プラット監督(以下、監督):映画を観に来てくださりありがとうございます。トルコで撮影した作品を日本という全く違う文化背景の下で上映し、皆さんと分かち合えることは、私たちにとってとても誇りに思うべきことで、また特別な感情を与えてくれます。
 
ビロル・ギュヴェンさん(以下、ギュヴェンさん):私は飛行機で旅したときに、あることを想像してみました。窓ガラスからタラップ車を見て、もしこれが日常の生活の中に出てきたらどうだろうか、何か変わった話はできないだろうかと。そこで生まれたのがこのストーリーです。今日ここにいる友人たちが一緒になって映画を作ってくださいました。ここで彼らにお礼を言いたいと思います。
 
ハジュ・アリ・コヌックさん(以下、コヌックさん):この映画において最も重要なのは愛です。愛がいかに全てに勝るか、最も重要であるかということを語っていると思います。そして、大事なのは家族です。
 
Q:劇中、奥さんが「車がないとダメだ」と言っていましたが、今のトルコでは車や収入は結婚に際して重要なポイントなのでしょうか?
 
監督:このことは、日本やトルコに限っての特徴ではありません。もはや世界中でまったく同じようなことが言われていて、消費、そして投資すること、それによって儲けること、お金を稼ぐこと、そういったことが全てなのだと。物質的なことが人間的な価値にも勝ることだとされているのですね。何かを所有することによって、人が存在することを証明する。そうした行為が世界中に広がっています。これはとても災難なことです。トルコでも全く状況は同じで、今回の車はそのシンボルとなるものですね。消費すること、そして儲けること、それによって人が存在しているのだと、世界中がそうしたシステムになっているのですが、私たちは今回、愛がそれに勝るのだと信じているわけです。そして団結して共にあることが重要であると信じています。ここで重要なのは車ではありません。良い心を持っていることなのです。シナリオはまずビロルさんが書かれて、それに基づき私が書いた内容です。
 
ギュヴェンさん:少し補足をしたいと思います。最も基本的な部分になりますが、映画の中で語られたように、「至らない、甲斐性がない」と言われている人間を語るのに、今回のタラップ車というものがひとつの良いツールでした。なぜなら、そうした至らないものには何かを補って解決してやる必要があるからです。例えば身長が低いとなると、高いところに手が届かない。そうしたことを補うのです。今回の映画の主人公もありとあらゆる至らなさ、足りない所があるのですけれども、それをタラップ車のおかげで解決した、補うことが出来たということです。
 
Q:タラップ車を使っていろんなことをしていましたが、一番良い使い方は何ですか?
 
ギュヴェンさん:私たちの文化、イスラム教の文化にある言葉があります。それはテバーフクというもので、「神アラーによってデザインされたある偶然」という意味です。今回のタラップ車は、ある種の不思議な力を持った車で、現実を超えたような存在です。そして映画の主人公、彼の人生をポジティブに変えてしまう。これによって小さな一人の人間が大きな存在へと創出されます。そうした創造の面もここで表現しました。
 
監督:タラップ車が、私にとってビジュアル的に最もハッと驚くようなものだったのは、海のシーンだったと思います。人々がトランポリンのようなものを使っていて、その背後にタラップ車があり、皆さんが遊んでいるという場面ですね。海水浴場なのにタラップ車があって、人々がその一番上から海に飛び込んだりしして、ビジュアル的にとても興味深いものとなりました。
 
ギュヴェンさん:私は今作の主人公のように身長が低いということもあり、そのせいでいろいろと辛い思いをしてきました。ですから、このヒーローを映画の中にはめ込む時に、いろいろとファンタジーをこめてみたんですね。その中の一つが、例えば彼にバスケットボールをやってもらおうと。私の出来なかったことを実現してもらおうと思いました。
 
コヌックさん:この映画の中で、私が最も興奮したのはタラップ車です。そもそもこの映画の主たる存在はタラップ車ということになります。その車が主人公の存在を高めていき、彼はある一定の地位までたどり着きます。私はこの映画において最も重要なのは愛だと思います。そして家族ですね。他には何もありません。
 
Q:タラップ車の前の部分に丸いお守りのようなものがありますが、あれは何ですか?
 
ギュヴェンさん:あれはトルコ語でナザール・ボンジュウというもので、私たちの文化圏では広範に使われており、邪視、つまり邪(よこしま)な眼差しからから守ってくれるものです。悪いエネルギー、ネガティブなエネルギーから守ってくれるもの。ですから、私たちはあらゆる所に吊り下げます。赤ちゃんや子供たちに着けたりすることもあります。それによって悪意や悪いエネルギーから彼らを守ろうということです。
 
Q:根本的な家族の問題は解決しているのでしょうか。
 
監督:残念ながら、現実の社会では成功しなければ自分の存在に気づいてもらえません。映画にもありましたが、彼は18年間も働いているのに、彼のボスは彼のことを知らなかったという話がありました。近所でも彼のことを知っている人はいなかったわけで、彼は成功によって周囲に気づかれたのです。現在の自由市場経済のもとでは、成功を収め、お金を稼ぐことで人々は認知されるという現実があります。私たちがここで訴えようとしたメッセージはそういうことではありません。ヒーローの地位はある一定のところまで到達しますが、それを失った後でも、家族と一つにまとまるであろうということです。
 
Q:この家庭はこのまま幸せが続くのでしょうか?
 
コヌックさん:昔に戻ることはありません。彼らは一つになったので心配することは何もありません。全世界に言えることですが、人種や肌の色が違っても、みんな一つになれる。みんなお互いを愛し合いましょう、抱擁をしましょう。大事なのは愛情です。

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