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コンペティション部門『ニーゼ』公式インタビュー
ホドリーゴ・レチェル(プロデューサー)
ホベルト・ベリネール監督
1944年のリオデジャネイロ郊外の精神病院を舞台に、当時は先進的だった芸術療法を取り入れようとする女性精神科医ニーゼ・ダ・シルヴェイラ。彼女の孤独な戦いをリアルにドラマチックに描いたホベルト・ベリネール監督とプロデューサーのホドリーゴ・レチェルは、これまで多くのドキュメンタリー作品を作って来た長年のコンビである。その2人に13年もかかった製作の裏話を伺った。
――実在の精神科医ニーゼ・ダ・シルヴェイラの映画を撮ろうとしたきっかけは?
ホドリーゴ・レチェル(以下、レチェル):私の友だちが彼女の人生や仕事について書かれた本を読んでいて、その本の取材をしたのがきっかけです。取材中に、「これって映画になるんじゃないか」と思って。私たちはよくドキュメンタリーを製作しているので、最初はこの映画もドキュメンタリーにしようとしましたが、ニーゼの人生があまりにもパワフルなので、これはフィクションでもイケるかなと思うようになりました。
――監督は最初から決まっていましたか?
レチェル:私たちは一緒の会社のパートナーなので、彼が関わることは決まっていましたが……。
ホベルト・ベリネール監督(以下、ベリネール監督):でも、最初から私が監督に決まっていたわけではありません。私は撮影監督で、他の人が監督をする予定でした。しかし話を進めていくうちに、その監督が、この映画を作るにはあまりに責任が重すぎるといって辞めてしまったのです。当時、私は他の映画にも関わっていたのですが、それでも『ニーゼ』は作らなければならない作品だという想いが強かったので監督をすることにしました。
――監督が降りるほど重い責任のある作品を引き継いだプレッシャーは?
ベリネール監督:大きかったです。それに実際、大変でした。なにしろ、この話が出てから完成まで13年、私が監督に決まってから11年経っていますから。何度も何度も脚本を書き変えて、非常に深い話なのでなかなかフィットする脚本にならなかったのです。私たちは、脚本ができ上がる11年の間に、他の映画を5本作っているんですよ。それでも諦めずにやり続けたのは、それだけこの題材が大事な映画になると思っていたからです。というのも、ニーゼという人物は私たちにとって重要な人でありながら、あまり知られていないからです。
――実際に撮影を開始したのは?
ベリネール監督:2011年の中頃に脚本ができ上がって、2012年の1月に撮影を開始しました。それでも4年かかっています。その間に、実際に統合失調症の患者のいる病院で2〜3ヶ月を過ごしました。病院のスタッフと一緒に寝食を共にし、統合失調症の患者さんも一緒にリハーサルをしたりしていました。彼らと過ごすことによって、実際に患者たちがどんな行動をするのかというのも分かりました。
――ブラジルのスター女優グロリア・ピレスがニーゼを演じることになった経緯は?
ベリネール監督:最初は他の女優さんで決まっていたのですが、健康上の問題が生じて降りてしまいました。そこで、グロリアに話を持っていったら非常に喜んで快諾してくれました。彼女は第一線で活躍する特別な女優であり、いろいろなプロジェクトをやっている多忙の人。でも、そのプロジェクトとプロジェクトの合間を縫って、彼女が自由になった時にリハーサルから撮影に入りました。
――患者の生態などがとてもリアルで圧倒されました。ドキュメンタリータッチのリアルさにドラマ性を加味するバランスは?
ベリネール監督:脚本の中に全部、台詞が書かれているシーンもあれば、状況だけ設定してあるシーンもあります。たとえば、作業療法の部屋では全部、順撮りをしています。シーンリハーサルをし、そこに一人ひとりのドラマがわかっているコーチみたいな人がいます。演じる俳優それぞれが、動いたりしゃべったりしていく。ひとりは、最初はあまりしゃべらないけれど、そのうちにいろんな物が汚れていって、そういう時はこんなしゃべり方をするとか。
別の患者は、こんなふうに動くとか。リハーサルをしてひとつの流れを作り、その後に撮影するのです。それもドキュメンタリーのように、アクションが起こる前にカメラが動くのではなく、アクションにカメラがついていく、カメラが動いていくというやり方をしました。
――ラストにニーゼご本人が登場しますが?
レチェル:1970年代初頭に製作されたブラジル人のレオン・フィッシュマンという人が撮ったドキュメンタリー『無意識のイメージ』があって、それは本作にも登場する患者さん3人を撮ったトリロジーです。その中にニーゼ本人が写っているのです。しかも、そのドキュメンタリーの本編ではカットされていたニーゼのインタビューの映像が、いまではボックスセットとして再発され、その中にニーゼのインタビューも収録されていたので、使わせてもらいました。
(取材/構成 金子裕子 日本映画ペンクラブ)
『ニーゼ』
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