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『家族の映画』
オルモ・オメルズ(監督)
イェノヴェーファ・ボコヴァー(俳優)
イジー・コネチニー(プロデューサー)
両親のバカンス旅行の間に、高校生の姉と中学生の弟は自由を謳歌していたが、思いもよらない事態に襲われた――。青春映画のようなはじまりから観客の予想を裏切る展開が連続し、家族の在りようがアイロニカルに綴られる。スロベニア出身の監督オルモ・オメルズの才気が画面に漲る仕上がりとなっている。今回の来日は、監督と高校生の姉を演じたイェノヴェーファ・ボコヴァー、プロデューサーのイジー・コネチニーの3人である。
──予断を許さないストーリーですが、どのように発想され育まれたのですか。
オルモ・オメルズ(以下、オメルズ監督):きっかけはインターネットで見た、3行ぐらいの記事でした。カップルがセーリングに行き、つれていった犬が行方不明になり、その犬は小さな無人島で見つかったという内容でした。ロビンソン・クルーソーのような犬のイメージが湧きました。この犬はどうしたのだろう。飼い主はどうしたのだろうと考えはじめ、映画のストーリーを考えるきっかけになりました。
──たしかに、最初は思春期の青春映画かなと思わせて、どんどん予測のつかない展開になりますね。
オメルズ監督:どんな生活を考えてみても、目に見えない表面に出ないことはたくさんあると思い、さまざまな角度でアイデアを広げました。
──この内容で家族の映画、たしかに犬も家族の一員ですが、皮肉がきいています。監督はかなり意識されていたのでしょうか?
オメルズ監督:シニカルほど強くないアイロニーにしようと思っていました。シニカルにするのはむしろ簡単ですが、家族の在りようを重苦しくしたくなかった。軽快さのバランスをとるのがアイロニーだと考えています。
──キャスティングはどのように組まれたのですか。
オメルズ監督:キャスティングは大変でした。『家族の映画』で父親がふたり登場します。最初の父親と息子が親子と信じられる程度に似ていないといけないし、2番目の父親も観客が納得できる容姿でなければならない。ボゴヴァーさんのことは頭にありましたが、キャスティングは悩みました。
そしてなにより、犬のキャスティングが大変でなかなか決まりませんでした。しかも似たような容姿のボーダーコリーがなかなかいないのです。結局、二匹を使ったのですが、オスとメスになってしまいました。ボーダーコリーは水が好きなのでこの犬種にしました。毛足の長い犬にしたのは、毛の汚れや色が変わっていくことで時間の変化を表しやすいからです。
──イエノヴェーファー・ボゴヴァーさん、この役を演じてみていかがでしたか?
イエノヴェーファー・ボゴヴァー:私生活で弟はいないのですが、年下の従兄弟がいるので想像しやすかったし、演じやすかったです。監督はきっちりとしたイメージを持っていて、何度か監督と意見の衝突が起きましたが、監督の判断に委ねました。大変でしたが演じ甲斐がありました。
──チェコ映画は伝統的にアイロニーのあるコメディが多かった気がします。
オメルズ監督:私自身は旧ユーゴスラビアのスロベニア出身です。スロベニア人としてプラハ映画テレビ学校(FAMU)で学びました。ここはエミール・クストリッツァのようなバルカン人の映画監督も輩出していて、ある意味でチェコとバルカン、ふたつの伝統が融合している感じです。
プロデューサーのイジー・コネチニーに出会い、チェコに住むことになりました。私はミロシュ・フォアマンも1960年代のチェコ映画も好きですが、小さい頃にチェコ映画にあまり触れることはありませんでした。私の表現しているアイロニーは、私個人のもので、チェコのそれとは違うと思っています。
イジー・コネチニー:ただ、ユーモアはチェコのものではないとも言い切れない部分もあります。一部の人たちは監督はクールで、対象に距離を置くタイプだと思っていますが、私はそれに同意しません。映像の奥には豊かな感情があるからです。この映画はチェコでは試写をしただけで、12月に封切になります。チェコの人々がどう判断するか、楽しみです。
オメルズ監督:この作品はブラックコメディでもないし、シリアスドラマでもない。私は『家族の映画』というタイトルを面白いと思っています。ファミリー映画のジャンルにも入らない映画。そこに皮肉な思いが込められています。
──監督はどんな映画を観て育ちましたか? 子どもの頃はどんな映画が好きでしたか?
オメルズ監督:あらゆる映画が好きでした。監督ではアッバス・キアロスタミが好きだった時期もあるし、ミケランジェロ・アントニオーニが好きだった時期もあります。モーリス・ピアラとテレンス・デイヴィスも自分とはまったく違うタイプですが大好きです。
(取材/構成 稲田隆起 日本映画ペンクラブ)
『家族の映画』
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