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2015.11.02
[イベントレポート]
「人に接するときに愛情を与えれば、前進できるということです」コンペティション 『ニーゼ』-10/25(日): Q&A

NISE

左からホベルト・ベリネール監督、ホドリーゴ・レチエル プロデューサー
©2015 TIFF

 
10/25(日)、コンペティション 『ニーゼ』の上映後、ホベルト・ベリネール監督、プロデューサーのホドリーゴ・レチエルさんをお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 

10月25日 コンペティション部門『ニーゼ』:Q&A
登壇者:
ホベルト・ベリネール(監督)(監督/脚本)
ホドリーゴ・レチエル(プロデューサー)

 
ホベルト・ベリネール監督(以下、監督):日本で上映させていただけることを非常に光栄に思っておりますし、喜ばしく思っています。日本というまるで違う惑星で上映するような気持ちでおります。文化もまったく違う惑星のような国で、皆さん、どのように思われて、どのように受け止められたのか非常に興味深いところです。
 
ホドリーゴ・レチエル プロデューサー(以下、レチエルさん):数日前にこの映画のワールドプレミアがリオで行われました。そして今回、この東京でインターナショナルプレミアとして国外で初めて、日本でお見せできることができて非常に誇りに思っており、また嬉しく思っております。
 
Q:40年代を舞台に、「こんな女性がいたんだ、こんな人間がいたんだ」という感動の物語ですが、なぜ2015年という今、この人物を描こうと思われたのでしょうか?
 
監督:実はこのプロジェクト、非常に長い期間がかかりました。13年前に脚本を書き始めたのですが、映画を撮るまでの間に、他の映画を5本完成させるまでに至っています。長くかかったのは脚本で、何年もの間に何度も変化しました。このストーリーは非常に強い女性の話です。最初は彼女の人生を全部描こうとしたのですが、1本の映画では長すぎるので、彼女が手がけた大きな仕事の最初の部分だけを映画にしようと考えました。一番大切な瞬間、そこをこの映画で見せたいと思ったのです。それは彼女が違う人になっていったこと… 違う人というのは、何が違うかというと、見るものが違っていた、どこを見るかが違っていた。(彼女が)変わっていくその瞬間を見せようと思いました。彼女は誰も注目していなかった人々、精神病院にいる人々を見つめ、彼らに目を向けました。それまでの精神科医は人を見ているのではなくて、治療法や機械を見ていました。それはブラジルにおける人々の危機でもあるのですが、そこに彼女が現れたわけで、彼女は自分の考えにブレがなかったのです。(彼女は)それまでの治療法と違うものを始めたのです。
 
Q:素晴らしい演技を見せておられますグロリア・ピレスさんなのですが、この10数年間ずっとヒロインとしてグロリアさんというのをイメージされていたのでしょうか?
 
監督:彼女と仕事をするのは夢でした。ただ、このプロジェクトでは他の女優さんを使おうと思っていたら、その彼女が病気になってしまったのです。それでは誰にしようかと思ったときに、グロリアさんの名が挙がりました。彼女が同意してくれるまでかなり時間がかかりました。彼女は特別な人です。素晴らしい女優であるだけでなく、素晴らしい人物なのです。私が人を選ぶ時には、単に才能があるからというだけでは選びません。その人の人柄を見ます。我々の人生にどれだけ貢献してくれるか、そういう人を選びます。
 
Q:この映画に登場する精神疾患を抱えた人々を描くにあたって、監督や製作の方々が気をつけたことはありますでしょうか?
 
監督:実は40年代のブラジルでの治療は、他の国でも同じだったかと思うのですが、映画で描かれているよりももっと酷かったのです。精神病院にいるということは、この世で一番酷い場所にいるということで。毎日人が死んでいました。映画以上に現実は酷かったのです。一番大切なことは、人に接するときに愛情を与えれば、こういう人たちもちゃんと前進できるということです。私たちは撮影の2ヶ月前に、実際に起こった場所、つまり撮影場所は実際に起こった場所だったのですが、そこで、私たちは統合失調症の人たちと一緒に生活しました。患者さんの役の人は、俳優さんの人もいれば、実際の患者さんもいます。そして、製作者として、クルーとして一緒に働いてくれた患者さんもいます。最初に私たちがそのようにやると言ったら、周りの人たちから、すごく大変なんじゃないかと、そんな大変な場所で、あのような人たちと一緒にするのはすごく大変なんじゃないかと言われたのですが、一緒にやっていくうちに、調和、ハーモニーの取れた映画作りができました。この映画作りのプロセスは本当に素晴らしく、忘れられないものになりました。私はもともとドキュメンタリー映画を撮っているのですが、この映画のプロセスはドキュメンタリーを撮るプロセスにとても近いものだったと思います。
 
Q:レチエルさんはプロデューサーとしてずっと監督を支えてこられたと思うのですが、監督がおっしゃった現場の難しさというのをどのようにご覧になっていましたか?
 
レチエルさん:この映画を作るのにとても長い時間がかかったのですが、脚本を作り上げるのがとても大変でした。映画作りすべてのプロセスで、脚本作りが一番大変でした。いったん、彼女の人生のどの時期をどうやって語るかということが見えてきたら、だんだん楽になってきまして、その後ようやく製作が始まったわけです。その後、この病院に頼んで、病院がドアを開けてくれて、そこで私たちは撮影をして、リハーサルをして、いろいろな準備をしたのです。そしてこの病院で撮影すること、そこで生活したということが重要なのです。なぜならば、40年代に彼女があのような仕事を成し遂げた場所ですので、まさにその病院で撮影したり、準備したりすることがとても大切でした。
 
Q:主人公の女性のことを全然知らなかったのですが、この方はブラジルでは有名な方なのでしょうか。また、この方は、もともと脚本ではその人の一生を描こうとされていたということでしたが、一番大切な時期を今回描かれたわけで、この映画の後、彼女はいったいどうなったのか、患者さんたちはどうなったのかということを教えていただけますか?
 
監督:ごく一部の人たちの間でとても有名です。とても重要な人なのですが、ほとんどの人は知りません。映画の後の彼女ですが…。彼らにアートをする機会を与えたなら、つまり自分たちを表現する機会を与えたら、彼らはどんどんアートを作り始めました。それぞれ、作品のひとつひとつに名前、番号、日付を付けて、彼女はそのプロセスを研究していったのです。長い間、そのプロセスを研究していきました。彼女は94歳まで生きて、本を書きました。それは無意識のイメージについて書いたのですが。自分がそれまで研究したプロセスを時系列に並べて書いた本です。とても重要でとても特別なものですがあまり知られていません。彼女はユングととても近しかったのです。ユングよりも彼女のほうが多くの患者、クライアントと接していたと思いますが、ユングはこの映画の中に出したくなかったのです。彼女の素晴らしさを出したかったのです。
 
レチエルさん:彼女は1957年にチューリッヒで展覧会を開きました。そこに作品を出品したクライアントはすでに亡くなっているのですが、美術館はまだ存在していますし、そのセクションも存在しています。現在に至るまで35万点の作品が所蔵されています。いまだに多くの方々がアートを作っているわけですが、とても重要な作品である美術館なのですが、残念なことにそこを訪れる人は少ないそうです。
 
Q:現代のブラジル社会に通じるものがあると監督さんがおっしゃいましたが、私はブラジルだけでなく現代社会そのものに通じるものがあると思います。現代社会の中で、どういったところに通じる部分があるのかお話し願えますでしょうか?
 
監督:今の私たちの現代社会においてモラルの、倫理的な危機を迎えているというところが当時のブラジル社会と似ていると思います。そして一歩踏み出して世界を変えるという態度が必要だと思います。ただ考えるだけではだめだと思います。今、皆さん、お金を稼ぐとか、いい洋服を着たいとか、いい車に乗りたいとか、物に対して心配しすぎていると思います。ニーゼはそういうものは小さいものだと考えていました。彼女がこういうふうに言っていたのですが、どちらが大切でしょうか。人の心を理解するということと、原爆や自動車を作ること、どちらが大切でしょうかと言っていました。人の心を理解する、みんなの心を理解するということは小さいことかもしれませんが、とても大きいことなのです。そういう意味で彼女はとても大きな存在だと思います。

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