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10/24(土) コンペティション『スナップ』の上映後、コンデート・ジャトゥランラッサミー監督、ソーロス・スクムさん(プロデューサー)、ワラントーン・パオニンさん(女優)、ティシャー・ウォンティプカノンさん(女優)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
コンデート・ジャトゥランラッサミー監督(以下、監督):東京国際映画祭に参加するのは3回目になります。けれども今回の作品はワールド・プレミアということで、まだ興奮が醒めません。実は今作は私の7本目の作品なのですが、先ほど自分の作品を観ていてもやっぱり心の震えを禁じ得ませんでした。みなさんにも同じように感じていただけたら嬉しいです。
ソーロス・スクムさん(以下、スクムさん):まずは東京国際映画祭でこの作品をコンペティションに選んでいただき心よりお礼を申し上げます。すごく光栄に思い、そして感動しています。また、こんなにもたくさんの観客の方にいらしていただいてとても嬉しいです。終電が気になるなか、Q&Aに居てくださりありがとうございます。
ワラントーン・パオニンさん(以下、パオニンさん):(日本語で)コンバンハ。ワタシハインクデス。ヨロシクオネガイシマス。私はこの映画で初めて演技をしました。自分が映画に出演できるなんて思ってもいなかったんです。だから、こんなに大きなスクリーンで初めて自分の演技を見て、すごく興奮しています。そして、この映画に興味を持って観に来てくださり、本当に皆さんありがとうございます。とても嬉しいです。
ティシャー・ウォンティプカノンさん(以下、ウォンティプカノンさん):実は私も映画に出るのは初めてなんです。きっとこの映画を観て皆さんも同じような気持ちなのではないかと思います。スタッフ全員がみんなで一生懸命作った映画に、こんなに興味を持って観に来てくださり心からありがとうございます。
Q:今回恋愛というテーマを選ばれた理由を教えていただけますか?
監督:実はラブストーリーは以前撮った事があります。2作目の『ミッドナイト、マイ・ラブ』という作品です。けれども、恋愛映画を撮るのは本当にしばらくぶりで、恋愛についてリサーチをしなおしたぐらいなんです。最初の一時間を観ていただけると分かるのですが、ロマンティックな気持ちって本当に世の中に存在するのだろうか、という疑問がありました。その疑問はこの映画を撮りながらも常に持ち続けていました。
Q:エンドロールに流れた曲は、既成の曲ですか?
監督:曲はもともとある曲です。大体10年くらい前の曲だったと思います。実は私はこの曲にずっと親しみを持っていて思い出があります。3本目の映画を地方へ撮りに行く時に、撮影スタッフと一緒に長時間車に揺られていたんです。その移動の時にこの曲をよく聞きました。以来、私の心の中にずっとあった曲です。長時間一緒にいた人がいなくなった時の気分をこの曲は歌っているのですが、自分の思い出の中で、あの時一緒にいたスタッフもいなくなってしまったなと思っていました。ですから脚本を書き始めた時からこの曲を使おうと思っていましたし、テーマの一部でもあります。
Q:今回、なぜ新人を起用されたのでしょうか。
監督:脚本を書いている時から新人に演じさせたいと思っていました。特にタイでは有名なスターが演じると、本人にある程度のイメージがついてしまっているので信じてもらえません。新人だと普通の人間として映画を観てもらえるので、その方が良いと思いました。キャスティングは数多くの人を見ましたし時間をかけました。キャスティング部の担当者が動画を色々送ってきたのですが、その時は全然気に入らず、しかしそう言わずに会ってみるだけ会ってくださいよということで、彼女に会ってみました。しばらく話をしてみて、すごくナチュラルな子だと思いましたし、考え方がヒロインに似ていると思いました。彼女がオーディションを終えて帰った後、プロデューサーにもう他の子は探さなくてもいい、彼女に決めたと言いました。
スクムさん:コンデート監督が先ほど言った通り、脚本を書いている時から新人を想定していて、私も賛成でした。正直に言うと僕はヒロイン役に別の人を推していたんですが、監督がおっしゃるようにワラントーンさんがすごくナチュラルなので最後は賛成しました。
ワラントーンさん:実は映画に出る前は、ガールズグループの一員として歌手活動をしていたことがあります。子供のころからずっと歌うのが好きで、今、大学では音楽を専攻しています。オペラを学んでいて私はソプラノ担当なんです。ずっと歌をやってきた私なので、演技ができるとか映画に出られるなんて思ったことはありませんでした。だからなのか、演じることに対してプレッシャーは全くありませんでした。映画の製作スタッフとものすごく仲良しになって、撮影現場はすごく楽しかったです。撮影現場ではご飯を作っているおばちゃんから、プロデューサー、監督までみんな優しくて意地悪な人が誰もいませんでした。地方のチャンタブリという県で撮影したのですけれども、夜まで一緒にいたのでキャンプ気分で楽しかったです。すごくみんなの間に絆が生まれました。特にティシャーさんはこの映画の撮影で初めて知り合ったのですけれども、何でも話せる友人、高校時代から十年来の友人のように親しくなりました。
ティシャーさん:私は映画に出る前はCMにしか出演したことがありませんでした。CM以外にもいろんな演技のオーディションを受けていたのですが、なかなか受からなかったんです。ある日、友人の付き添いでこの映画のオーディションに行って、私が受かって友人が落ちました。今回映画に出たことによって、他のオーディションをまた受け続ける力をもらったと思います。素晴らしい映画に出られてよかったと思っています。スタッフもみんな良い人ばかりで大好きですし、本当に家族みたいに仲良くなりました。監督とプロデューサーには心から感謝しています。
Q:メディアのカラーを使い分けるのが非常に上手い映画だったと思います。そのあたりに関して、苦労や工夫があったら教えていただければと思います。
監督:最初からこういったものを使い分けるというアイデアがありました。この映画のアイデアはノスタルジアやロマンティックなものというものは実際に存在するのか……という疑問から始まっています。それと同時に、私は現代人のライフスタイルを観察しました。現代の人は自分を表現するメディアとして、例えばスマートフォンだとか色々なメディアを使い分けています。私自身は写真を撮ることに興味がありまして、フィルターをかけるという事にもすごく興味がありました。例えば自分が撮ってフィルターをかけるとその写真が一瞬にして古く見えたり、暖かい雰囲気に変わったりするからです。ただ、その写真に対するフィーリングというのは一体どんなものかと思いました。ちょうど脚本を書いている時、8年ぶりのクーデターが起こりまして、国の状況にも興味がわきました。もしこの映画のバックグラウンドに時代の背景を取り入れて、それにフィルターをかけたらどう見えるか、人はクーデター中にもロマンティックな思いを持ち続けることが出来るのだろうか、などの疑問が生まれました。
Q:監督が恋愛の調査をしたとおっしゃいましたが、実際にどのようなリサーチをされたのか、また現代のタイの恋愛事情の特徴をどのように捉えたのか、教えていただけますか?
監督:すごく難しい質問です。最初のアイデアとクーデターのことをテーマに取り入れようと考えた時に、もう一度良く考えてみると、タイという国がどんどん変わっていっていることに気づきました。そして、人の絆さえも変わっていっているということにも気がつきました。例えば昔は仲が良かった人たちが話さなくなったという現実があります。なぜかというと、政治に対する見解が違うからもう話し合いができないからです。そのような時に、人はどうやって恋愛をするのかという漠然としたテーマが浮かびました。自分の人生から消えた人に対する気持ちはどうなるのだろうと。私自身も、自分の人生から消えていった人たちのことを何人も何人も思い出しました。これが質問の答えになっていると良いのですが……。
最後に
監督:深夜の上映にも関わらず、こんなにもたくさんの方に観に来ていただいて本当に嬉しいです。ありがとうございます。この映画は私の人生にすごく意味のある映画です。そんなに規模は大きくない映画ですが、製作中はいろいろと問題がありました。いろんな方に助けられました。その中の一人にディックさんというプロデューサーの方もいます。その方のおかげで、この映画はこんなにも成功することができました。心よりお礼を申し上げます。