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2015.10.28
[イベントレポート]
「デンマークという国にも暗い裏側がある。そのことを示す映画を作ろうとリサーチを始めました」コンペティション『地雷と少年兵』-10/23(金):Q&A

地雷と少年兵Q&A

左からマイケル・クリスチヤン・ライクスさん、ローラン・モラーさん、マーチン・ピータ・サンフリト監督
©2015 TIFF

 
10/23(金)コンペティション『地雷と少年兵』上映後、マーチン・ピータ・サンフリト監督、ローラン・モラーさん(主演)、マイケル・クリスチヤン・ライクスさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
 
マーチン・ピータ・サンフリト監督(以下、監督):東京に来ることができて嬉しく思っています。皆さん、今日は足をお運びいただきありがとうございます。こんなに大きなスクリーンは見たことありません。
 
ローラン・モラーさん(以下、ローランさん):ありがとうございます。こんなにたくさんの方々にお集まりいただき嬉しく思います。念のために申し上げておきますが、私は実生活では良い奴なんですよ(笑)。
 
マイケル・クリスチヤン・ライクスさん(以下、ライクスさん):この作品をコンペティション部門に選出していただき、感謝を申しあげます。この作品とともに東京国際映画祭へ来られたこと、さらに日本でも配給が決まり来年公開予定であることを大変光栄に思います。
 
Q:この物語を映画にしようと思われたきっかけをお聞かせください。
 
監督:デンマークという国は、自分たちのことをすごくいい国であるかのように外部に見せようとしていて、私はそのことに少し飽き飽きしていました。このような傾向はどの国でもあることだと思いますが、私はこの国にも暗い裏側、ダークサイドがあるのだということを示すような映画を作りたいと思いリサーチを始めました。その中で、子供たちに地雷を撤去させていたことを知り、この作品を書くに至りました。
 
Q:実際に数百万個の地雷が埋められていて、その撤去に子供たちが動員されたということは史実だと理解してよろしいですか?
 
監督:はい、歴史的な事実です。埋められていた地雷の数は二百万個、二千人のドイツ人が派遣されてきました。すべて少年だったというわけではありませんが、作品の中では少年に焦点を当てています。
 
Q:監督やキャストはデンマークの方ですが、セリフの大半がドイツ語でした。コミュニケーションで苦労した点はありますか?
 
監督:実は少年兵を演じた子供たちはみなドイツ人でした。作品の中ではエッベとカール軍曹がデンマーク人で、そして女の子、彼女もデンマーク人で私の娘です。デンマークとドイツは隣国なのでほとんどのデンマーク人がドイツ語を喋りますし、スウェーデン語やノルウェー語も話せます。今回ローランに声をかけた時、「ドイツ語喋れる?」と聞いたら「もちろんペラペラだよ」と言っていたのですが、実はそうでもなかったです。
 
ローランさん:時に人は嘘をつくことも大切だと思うのですが、その時は嘘をついたつもりはありません。実は祖母がドイツのハンブルグ出身で、小さい頃にドイツ語を教えてくれていました。彼女は私が17歳の時に他界してしまいましたが、そのような経験も合って私はドイツ語がペラペラだと思っていたんです。ところが私はいま43歳で、17歳の頃からはだいぶ時間が経っていました。リハーサルをしてみて、これはちょっと磨き直さないといけないなと思い、ドイツ映画を見たり本を読んだりして練習しました。それでなんとか元に戻ってきました。
 
Q:この役のオファーがあった時に、どのように感じられましたか?
 
ローランさん:すごく嬉しかったのですが、同時にちょっと怖いと思いました。ただ、チャレンジができるのはすごく好きです。チャレンジをすることで自分の一番良い部分が引き出され、観客にも何か価値を感じてもらえるのではないかと思います。そのチャレンジが自分の役割の一部として作品の中に表現されていると思います。
 
Q:この映画ではいつ地雷が爆発するかわからないという緊迫感が表現されていると思います。映画を撮る上で、監督がもっとも気をつけていた点はどんなことでしょうか。
 
監督:脚本を書くにあたっては、2ページぐらい読み進んだところで「おそらくこの少年たちは吹き飛ばされてしまうだろうな」と気づくような作品にすることです。撮影についてはスリラーのように撮っていきました。砂に這いつくばったまま、何も起きていないけれど何か起こるかもしれないという、スリラー的なテンションを描いています。本当に地雷が埋まっているわけではありませんが、何か起きるかもしれないというふりはしなければなりません。実際にロケをした場所は戦争中に地雷が埋まっていた場所だったので、当時の雰囲気が再現されて、だんだんと本当に地雷撤去をしているのではないかという気分になってきました。実は撮影の2日ほど前にその場所で当時の地雷が見つかったんです。それで子供たちも怖くなったのではないでしょうか。
 
ローランさん:監督が地雷を見つけたという話をしたらマスコミがその話を取り上げるようになり、デンマークの人達はビーチにまだ地雷がたくさん残っているのではないかと思ってしまいました。かつてスピルバーグ監督が映画『ジョーズ』で人々に植えつけたビーチに対する印象と、同じような印象をサンフリフト監督は人々に感じさせたのです。ですから、来年はデンマークの西海岸で別荘を安く借りられるのではないでしょうか(笑)。
 
Q:映画を撮影するにあたって史実をたくさん調べられたと思いますが、その中で監督や役者の方がそれぞれどのように感じられたのか教えてください。
 
監督:確かにたくさんリサーチしました。このテーマはあまり教科書に書かれているようなテーマではないので、史実をベースにしています。例えばお墓や病院を訪ねたり、実際にいくつの地雷が埋まってたのか、どれくらいの人が負傷し、死亡したのかを調べたりしました。
私は、人間は常に変化に対して備えておくべきだと思っています。また、自分が他人に対してとる行動については、もしも自分が相手の立場だったらこうしてほしい、こう扱って欲しい……というような態度をとるべきだと考えています。この映画の中では、「私たち自身もまたモンスターになり得るのだ」ということを伝えるのが重要だと考えていました。相手と同じように、自分もまた他人に対して適当なことをやってしまうことがあり得るのです。
それから、私はこの作品を撮っていて非常に大きなジレンマに陥りました。自分がもし同じ状況に置かれたら、やはり同じ行動をとってしまったかもしれないということです。ドイツ人に地雷を撤去させたかもしれないと思いつつ、その一方で子供に地雷を撤去させるわけにはいかない。しかしそれでは誰が地雷を撤去するのか……と考え始め、ジレンマに陥ってしまいました。また当時の人たちがドイツ人に対して憎しみを持っていたのもよくわかるので、それをできる限り伝えたいと考えました。
 
ローランさん:悪やモンスターに対峙した時に、自分も同じモンスターになってはならないと思いました。
 
ライクスさん:本作では、非常に強いキャラクターが表現されていますし、敵と味方、善と悪といったキャラクター間の複雑さもよく描かれていると感じています。また、描かれている史実についてはデンマーク国内でもほとんど知られていない内容もあります。そうしたことを、映画を通じて伝えていくことが重要であると考えています。この作品はデンマーク国内では未公開ですが(デンマークでは2015年12月公開予定)、その公開時の反響も非常に楽しみにしています。このようなあまり知られていないストーリーは歴史の複雑さや多様さを効果的に表現します。また、今作のテーマは現代にも通じる内容です。現在も戦争の爪あとは地雷や憎しみという形で残っていて、未だに地雷で怪我をする人が一万二千人もいるということを考えると、このテーマを伝えていくことは非常に重要です。
 
Q:本作で描かれている子供たちをどのようにキャスティングされたのか、また双子の兄弟をどのように見つけ出したのかお聞かせください。
 
監督:今回はどうしても10代の新人を探したいと考えていて、演劇学校などにも行っていないような子を探していました。ミヒャエル・ハネケ監督のもとでキャスティングを行っていたスタッフにも加わってもらい、彼女ともディスカッションを重ねました。クリスマス映画などにも出ていない子を探すため、道端でキャスティングを行いました。多くの双子にも出会ったのですが、今回出演した双子は見た瞬間にこの子達だとピンときたのです。英語をあまり喋ることができず、演技の経験も一切ないとのことでしたが、彼らはアドリブも非常に上手でした。「ベッドの上にいる弟に話しかけてみてほしい」とか「自分の将来の夢について話してみてほしい」といったリクエストに対して、常にあのキャラクターのまま対応してくれたのです。映画の中では非常に絆が強いように見えていたのですが、後で聞いた話によると彼らは実生活で非常に仲が悪く、実際のところはかなり競い合っていたとのことです。映画の撮影の後では仲よくなったと聞いています。
また、今回キャスティングをした時には、ほとんどの少年たちは自分がどの役をやるのか知らない状態でした。リハーサルをする時も5種類、6種類の役を演じさせて、脚本全体を理解してもらうようにしました。普通役者というのは自分の与えられた役の分しか脚本を読まないので、ストーリー全体を把握していないんですが、今回は双子以外のキャストにいろんな役をやらせてみました。そうしてから全員を同じ部屋に集めると、例えば誰がどういう階層なのかというのがすぐ分かるようになってくるんですね。ひとつの部屋に集められると、「あ、こいつは強いんだな」とか、「こいつは面白いんだな」「こいつはちょっと弱いんだな」というのが分かって、だんだんと落ち着いていったという感じです。
 
Q:ローランさん、最後に少年たちとの共演で大変だったこと、難しかったことを教えてください。
 
ローランさん:難しいことはたくさんありました。少年たちは両親から離れ、外国で同じくらいの歳の子供たちと過ごしているので、ときどきバケーションに来ていると勘違いしてることがあり、私はそれに腹を立てたこともあります。子供たちを怒鳴りつけてしまい、その後で「怒鳴りつけてごめんね」と謝りました。今回、私は初主演の作品ですごくナーバスになっていたんです。自分にとってはすごく真剣で大事なことだから、みんな助けて欲しい、みんなの力でいい作品に仕上げて欲しい……というふうに頼んだら、彼らは私のこともすごくリスペクトしてくれるようになり、そしていい友人になりました。撮影が終わった後、子供たちが私の言うことをあまりにもよく聞くので、両親からこの子達を引き取ってくれないかと相談されてしまいました(笑)。

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